CFOが果たすべき「冷静で事実に基づいた関税対応」 最近、関税に関するニュースが飛び交い、社会や市場が過剰に反応する中、企業のCFOこそが、落ち着いた視点で事実に基づいた行動を取るべき存在として、改めて注目されています。ある調査では、回答者の59%が関税は自社にマイナスの影響を与えると回答しており、85%が関税をめぐる不確実性が事業計画に何らかの影響を与えているとしています。世界経済が関税問題により揺れる今、CFOには経営陣や社内のステークホルダーに対して、「冷静かつ明快な判断軸」を示す役割が期待されています。米国の関税が、交渉の手段であれ、制裁措置であれ、あるいはマクロ経済戦略を支える戦術であれ、企業やファイナンス部門にとっては次のような難しい問いが投げかけられます。方針の方向性はいつ明確になるのか。わが社が受ける影響はどれくらいか。今の業績予測はどれほど信頼できるか。この混乱がどこへ向かおうとも、どうすればしなやかに対応できるのか。こうした問いは、非常に重要で避けては通れないテーマです。ある調査によると、回答者の59%が「関税は自社に悪影響を与える」と考えており、85%が「関税をめぐる不透明さが何らかの形で事業計画に影響を与えている」と答えています。そのうち18%は「深刻な影響があった」としています。こうした中で、CFOは、経営幹部層(C-suite)や取締役会における戦略的な議論において、事実に基づいた視点からこれらの問いに答える立場として最も適しています。CFOが示す、冷静で根拠のある対応や行動は、関税の動向を感情的・劇場型に扱う他の多くの関係者と対照的に、企業内外で際立つ存在となり得ます。2020年のコロナ禍初期に、CFOたちは迅速にキャッシュフローや資金繰りの予測頻度を上げ、同僚たちからの「もっと深い、リアルタイムの財務の洞察を求める声」に対応しました。現在の関税をめぐる混乱の中でも同様に、誤情報の拡散、有効情報の急変、地政学リスクなどが次々と押し寄せる状況に対し、感度分析・シナリオプランニング・原価計算を含む「ファイナンス機能の総動員」が求められています。こうした時代にあって、CFOは「企業の理性の声」としての役割を果たすべきです。株主、取締役、経営幹部が問いかける「もし関税がこうなったら」という重大な問いに対し、「それならこうなる」というデータに基づいた答えを提供することが、CFOにとっての責務です。それは、企業の業績、収益、市場シェア、利益率、そして世界経済全体に関わる意思決定に、大きな影響を与えることになります。事実に基づいた冷静な判断を関税の影響を受けて、生産能力、サプライチェーン、価格戦略をどのように調整すべきかについて、ステークホルダーからCFOに多くの質問が寄せられています。利益を守り、成長を維持するために、CFOは次の点を念頭に置くべきです。ノイズの中から「本質的なシグナル」を見極める多くの報道では誤解が生まれがちですが、関税はその国から出荷される製品や部品に課されるものであり、小売店の棚や自動車ディーラーに並んでいる最終製品の価格に直接課税されるものではありません。もちろん、関税が価格上昇を引き起こし、結果的に消費者に影響を与える可能性はありますが、その影響の大きさは品目によって大きく異なります。たとえば、フォードF-150全体に25%の関税が課される場合と、1.40ドルのF-150用エンジン部品に25%の関税が課される場合では、意味合いが全く異なります。社内外の関係者からの質問に対してCFOが答える際には、事実に基づいた明確な説明が不可欠です。そのためには、会社の製品に影響するすべての関税のインパクトを正確かつ包括的に算出する必要があります。この影響評価は、原価計算、価格戦略、事業コストの見積もりなど、すべての関連プロセスに反映させなければなりません。関税には目的がある:背景を読み解く関税はすべて同じ理由で課されているわけではありません。たとえば、米国がカナダやメキシコに対して課した関税は、不法移民やフェンタニル(違法薬物)問題などに関する交渉カードとしての色合いが強いと考えられています。一方で、中国への関税は、物価の是正、貿易赤字の是正、知的財産保護制度の変更を目的としていると見られます。つまり、関税の背景によって、その影響の規模・期間・持続性が大きく変わるということです。政策がどれだけ続くか(継続性)は極めて重要な要素です。だからこそ、推測を事実として扱うことなく、冷静に受け止めることが求められます。 関税に関する発表があった際には、感情的に反応するのではなく、事実をもとに対応を検討する姿勢が必要です。関税は「単独」では動かない:制度変更との連動を理解する現在、米国では関税だけでなく、大規模な規制緩和も同時に進行しています。たとえば、消費者金融保護局(CFPB)の廃止や、証券取引委員会(SEC)による気候変動リスク開示義務の撤廃などが挙げられます。こうした規制の変更は、関税によるインパクトと重なり合い、企業にとってさらに大きな不確実性をもたらします。しかも、他国もまた自国の戦略的・戦術的目的のために関税を活用する可能性があります。このような政策と規制の複合的な変化は、企業の予測や計画立案を一層困難にするため、より動的なシナリオプランニングの必要性が高まっています。(米国への)「リショアリング」は一朝一夕ではない関税発表を受けて、「調達や製造を米国内に戻す」という判断が直感的に浮かぶかもしれません。確かにこれは戦略的に有効な選択肢です。しかし、現実には次のような大きなハードルがあります。米国は一部の重要な原材料(例:汎用プラスチックやレアアース)を十分に確保・管理できていない。材料の入手交渉や供給の整備には時間を要する。リショアリングには、大規模な投資・サプライチェーンの再設計・労働力の確保が不可欠。加えて、高齢化・出生率の低下・移民政策の変化といった課題が、長期的な労働力確保を難しくしています。その結果、労働力不足を補うために、自動化・省人化のための機械投資が求められる可能性もあります。CFOがこうした背景を踏まえ、冷静に事実を見極めながら、戦略的な判断を支える財務の土台を整えることが今、ますます重要になっています。次世代FP&A(財務計画・分析)を真に活用する好機リショアリング(生産の国内回帰)と異なり、関税への対応は即断即決が求められます。たとえば、関税が製品の原価にどの程度影響するか。輸送費やロジスティクスコストへの波及はあるか。利益率を維持できるのか。主要なサプライヤーにどんな影響があるのか。価格調整は必要か。そして、調整しても需要を維持できるのか。こうした問いに対し、CFOや財務部門が中心的な役割を果たすべきです。事実に基づいた対応力を高めるには、以下のようなアクションが必要です。コロナ対応で鍛えた「ファイナンス筋力」を今こそ活かすコロナのパンデミック時、多くのCFOがFP&A(財務計画・分析)機能を強化し、リアルタイムなデータを活用した柔軟な予測を行ってきました。現在の関税に起因する混乱においても、同様のスピードと柔軟性が求められています。社内外の多様なシステムから進化するデータを収集し、価格や数量の調整、配送拠点やタイミングの見直し、突然の関税率の変更(例:10% → 30%、25% → 撤廃など)への即応などの意思決定に活かす必要があります。こうした事態に備えるには、次世代型FP&Aの力が不可欠です。関税がどこで、どの程度ビジネスに影響を与えるかを可視化することで、CFOや経営陣は財務への打撃を最小限に抑える行動を取ることができます。また、冷静な分析は、誤った直感的な経営判断を防ぐためにも重要です。部品表の「ブラックボックス」を明らかにする「部品表(BOM)に何が含まれているか」これは、関税の影響が現実化したときに必ず直面する重要な問いですが、答えるのが難しいケースが少なくありません。契約製造業者であれ、一次サプライヤーであれ、原材料・部品・サブアセンブリの調達元と関税リスクの範囲を明確にする必要があります。このように部品表を可視化することで、FP&Aや原価管理の精度が高まり、価格調整の判断、サプライチェーン全体のリスク管理といった経営判断がしやすくなります。かつては、年初に一度部品表を作成し、年末に見直すという「定期点検型」の管理が主流でした。しかし今や、保護主義・関税・貿易摩擦が頻発する時代においては、より頻繁かつ柔軟な更新が求められます。原価計算のプロフェッショナルを活用する調達価格が変動し、部品表が再構成される中で、原価計算担当者(コストアカウンタント)の役割が一段と重要になります。彼らの計算や分析は、価格戦略の設計、損益予測、感度分析とシナリオプランニングのような領域に大きく影響します。また、グローバルな取引に関しては、移転価格チームとの連携も重要です。国際取引価格の事前合意(APA)なども含めて、関税コストの増加をどう吸収するかを最適化する必要があります。CFOにとってのチャンスこのような「変化の時代」は、CFOにとって大きなチャンスでもあります。上記のアクションを通じて、関税の影響について「よく分からない」と不安を抱えるさまざまなステークホルダーからの問い合わせに、的確かつ冷静に対応できるようになります。多くの場合、きっかけはショッキングなニュースですが、CFOの対応は、常に事実とデータに基づいたものであるべきです。まさに今こそ、ファイナンスリーダーが一歩前に出て、混乱の中に「明快さ」をもたらす時です。(2025年4月21日)英語版ブログ「CFOs Must Be the Voice of Reason Amid Tariff Turmoil」へのリンクはこちら Topics 取締役事項 リスクマネジメント/規制対応